キリムに込められた女性たちの想い


キリムに込められた女性たちの想い

母から娘へ…

アナトリアキリムの歴史は、今から9000年以上の昔に始まります。キリムのモチーフに見られる伝統的な表現方法は、世代から世代に、母から娘へと受け継がれ、今もなおその歴史を刻み続けています。

キリムがとても魅力的なのは、用いられているモチーフがとてもシンボリックで象徴的な意味を持っているからでしょう。モチーフの意味を判読するのには、数々の想像を働かさなければならないのです。研究者たちは、哲学・宗教・生活文化・精神分析にいたるまで、まさに人間性の全てを重ね合わせて、キリムに込められたメッセージを読みとろうとするのです。複雑に組み合わされた表現から、次々にイメージを膨らませる・・・それこそがまさにキリムが多くの人を惹きつける魅力といえます。

キリムのモチーフには、それを織った女性たちの秘められた想いが込められているのですが(時には本人も無意識なのか・・)、そのデザインには伝統的に受け継がれてきたある特定の形・幾何学的なパターンになっています。歴史の表にはなかなか表れてこない女性たちの社会に、脈々と受け継がれてきた文化なんですね。

9000年前、まだ人類が幼い子どものようだった時代にキリムは誕生し、そこに織り込まれたモチーフは愛や命、死や見えないパワーを表現してきました。キリムに織り込められたメッセージは、昔の人々が現代の私たちに残してくれた手紙のようなものかもしれません。ちょっと複雑すぎる暗号ですが・・・。でも、それを解読するのもまた楽しみです。めまぐるしく変わる私たちの毎日に、いつの時代も変わらない、飾らないままのやさしい心を伝えてくれているのですから。

トルコ語でキリムは、もともと単に織物を表しました。遊牧民にとっては、たとえ彼らが定着生活であったとしても、夏は涼しくて冬は暖かいというキリムは、生活にはなくてはならない、何にでも使える幅広い用途のものでした。

例えば、キリムは風や砂から身を守ってくれる家にもなり、家の中ではベッドやテーブルにもなる。おしゃべりをするためのスペースをつくったり、赤ちゃんのゆりかごになったり、タンスになったり、棺にだって使われました。そして神聖なお祈りの場所にも。

宗教的な儀式に使うものということでは、キリムほど日常生活にとけ込み、しかも伝統的に花嫁道具のひとつとして女性の手で作られていたのは、他のどの文化や文明にも見られないキリム特有のことなのです。ここにもまた、キリムと精神世界を結びつける密接な関係がありそうですね。

(2001.6)

生活道具としてのキリム
4mを超える巨大なキリムは、大切な嫁入り道具として何年もの年月をかけて準備されたもの。実際には使われないまま、大事にしまわれていたものものも多く、コンディションのよいものはたいへん価値が高いのです。
キリムは一家の財産でもあり、家長が亡くなったときにはキリムを切り分けて息子や娘などの兄弟たちに分けられたといいます。左右別々に織って1枚につなげたチフカナットと呼ばれるキリムが、半分しか保存されていなかったりするのは、この財産分与の習慣のためなんですね。

遊牧民のテント生活では、穀物を入れる袋もキリム製です。チュアル(Cuval)と呼ばれる1m弱の収納袋には、素朴ながらも美しい装飾のあるものがたくさんあります。敷物として使うために開いた状態で輸入されるものがほとんどで、サイズも手ごろなのでコレクションとしても楽しめます。

コーカサス地方(現在のアゼルバイジャン)に多い、ゆりかごのような形の収納袋。

塩(岩塩)を保存しておくための袋。

ほかにも、ロバの背で荷物を運ぶために二艘になったヘイベ(Heybe)、ソファや枕のように使われたヤストゥク(Yastuk)など、キリムは生活のあらゆる道具として使われていたのです。