紫香房の所在地、岩手県とも縁のある植物:ムラサキ(紫)の根である紫根。紫根は古くから、染料用や薬用として利用されてきた歴史があります。
このページでは、弊社すべての製品に使われている生薬「紫根」についてまとめています。興味のある方はぜひご覧ください。
<名称> シコン(紫根)
<英名> Lithospermum Root
<主な産地> 中国や朝鮮半島、日本ではわずか
白い花をつける植物:ムラサキ(紫)の根で、生薬名としてはシコン(紫根)となる。紫根の形状はやや細長い円錐状を呈し、しばしば分枝している。長さは6~10cm程度、径は0.5~1.5cm程度で、折りやすい。色は全体的に暗紫・赤紫色を呈する。根を掘り上げたのち、日干しなど乾燥をしっかり行ったものが使われる。
日本最古の歌集である万葉集にも「紫」は登場し、植物「ムラサキ(紫)」を詠んだ歌や紫の色について詠んだものを含めると17首あるといわれています。
また日本では、聖徳太子が定めた冠位十二階において最上位を示す色とされ、「紫」に対して高貴なイメージが定着しました。実際に、紫色は天皇家のみが使用できる禁色として扱われ、禁色が完全に解かれたのは江戸時代になってからでした。
庶民も使用できる色になると、「江戸紫」「京紫」「南部紫」といった紫根染めが流行していきました。紫根染めには主に紫根が染料として使われ、こうして植物「ムラサキ(紫)」の栽培が盛んになりました。しかし明治時代に入ると、化学染料が普及しはじめたことで紫根染めは衰退し、紫根の需要も低下していきました。
生薬「紫根」の歴史は古く、西暦3~4世紀頃編纂された中国の古書「名医別録」には“膏を作り小児の瘡および顔のできものを治療する”とあり、軟膏としての利用が古くから記載されていました。この「名医別録」は漢方医学における最重要古典の1つとされる名著です。植物はもちろん、鉱物や昆虫などを含む563種の生薬の効能や使用目標が掲載されており、昔から生薬「紫根」の効能が知られていたことがわかります。
また、1617年に中国「明」の外科医・陳実功が記した書「外科正宗」には、紫根と当帰、ごま油、蜜蝋を材料として作った軟膏「潤肌膏」を治療に用いていた記載がされています。
日本でも、江戸時代の医師・華岡青洲が考案した漢方軟膏「紫雲膏」が登場しました。紫雲膏は上記の潤肌膏を元に創製され、紫根に当帰、ごま油、蜜蝋などから作られます。患部の血行を促して潤いを与え、炎症を鎮める働きがあり、やけど・ひび・あかぎれ・しもやけ・湿疹・外傷等による疼痛、裂傷を改善することが知られています。紫雲膏は、現在でも複数の製薬会社で発売されていて、病院でも使用されています。
また、紫根と当帰の組み合わせは漢方薬「紫根牡蛎湯」としても活用されており、体力・免疫力低下による貧血や倦怠感などに効果を発揮します。このように生薬「紫根」は、昔から現在に至るまで活用され続けているのです。
紫根の成分組成は、生育条件や気候条件・地理的要因などの環境要因により差異が生じると考えられますが、主に以下のような組成となっています。
・ナフトキノン類
→シコニン、アセチルシコニン、イソブチルシコニン
・多糖類
中でも、シコニンおよびアセチルシコニンに抗炎症作用、抗菌作用、創傷治癒促進作用、血管透過性亢進抑制作用などの薬理作用が認められています。
薬理作用の各詳細は割愛しますが、血管透過性亢進とは、炎症やストレスにより血管壁の隙間が広がり、通常は通さないような血漿タンパクや水分が血管外へ漏れ出しやすくなる状態のことを指します。この現象により、むくみ、発赤、痛みなどが引き起こされることから、血管透過性亢進を抑制することがさらなる炎症を抑えることにつながります。
さらに美容面でも、大手化粧品会社や製薬会社による研究で、しわ改善による抗老化作用、色素沈着抑制作用や水分保持による保湿効果が確認されています。
弊社では上記のような紫根の薬理作用に期待して、紫香房石鹸や桜膏では菜種油を、紫潤では植物性エタノールを用いて、紫根からの有効成分抽出を行っています。
紫根は、藩政時代には盛岡藩(南部藩)の重要産物とされ、特に岩手山麓を中心とした地域で産出されるものは良品で、染料用や薬用として珍重されていました。
またこの地域では、紫根を染料として用いた紫根染めが発展し、江戸紫や京紫と並んで「南部紫」と言われるほどでした。盛岡藩4代藩主である南部重信の時代に、南部紫根染の幕府献上が定例となると、南部地方で生産される植物「ムラサキ(紫)」の評判が高まりました。実際に盛岡藩は、紫の私的な利用を禁じて生産・流通を管理するなど、当時の紫の重要性がうかがえます。
さらに、岩手県旧西根町(現在は八幡平市)では町花を紫に指定していた歴史があり、この西根町産の紫は昭和天皇の希望で吹上御所へ移植されたこともあります。このような出来事からも、昔から岩手県と紫根(紫)のつながりは強いことがわかります。
しかし現在、岩手県での紫の自生地はほとんど消滅しており、野生絶滅に直面している状況です。栽培という形での保存はされているものの、環境省の定める絶滅危惧種にも指定されています。
生薬「紫根」を収穫するためには、当然ながら植物「ムラサキ(紫)」を栽培する必要があります。しかしながら紫は、発芽率が低いことや、ウイルスによる病害に弱く生存率が低いこと、成熟個体になっても容易に根腐れを起こすなど、非常に繊細で弱い植物です。こうした理由に加え、草地の遷移進行や管理放棄による生育環境の悪化も相まって、前述したように環境省の定める絶滅危惧種にも指定されています。実際に、現在医薬品などに使用されている紫根は、そのほとんどを中国からの輸入に頼っている状況です。
また近年は、外来種セイヨウムラサキとの交雑が危惧されています。セイヨウムラサキは、ムラサキ(紫)と外見が類似しているものの、花の色が本来の白色ではなくやや黄色がかっています。さらに発芽率が高く、病害虫にも比較的強いことから容易に野生化するといわれ、ムラサキと容易に交配してしまうという問題が懸念されます。なお、ムラサキと間違って栽培されている場合や、交雑種が栽培されていることがあり、この点にも注意が必要とされています。
弊社では、2013年から「ムラサキ(紫)」を無農薬で契約栽培していただけるようになりました。徐々に栽培方法が確立されてきていますが、前述したような栽培の難しさや、近年の異常気象などの影響もあり、収量が予定量の半分以下になることもあります。
(以下は弊社での紫栽培の様子)