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80年代の熱狂と、あるデザイナーの旅の記憶。

公開日:2026/02/03 更新日:2026/02/03
80年代のポストモダン・デザインを象徴する「メンフィス(Memphis)」の創設メンバー、 ピーター・シャイヤー。 彼が1980年から89年にかけてヨーロッパ各地を巡った旅の記録が、 この一冊に凝縮されています。 タイトルの「Grand Tour」は、 かつての教養の旅をなぞらえたものですが、 ここに収められているのは教科書的な歴史ではありません。
「ウィーンは寒かった!」 そんな飾らないキャプションとともに写る、 シャイヤー自身のポートレート。 完成された作品写真ではなく、 彼が何を見、何を楽しみ、誰と過ごしたのか。 その個人的な視点こそが、この本の核心です。
ウィーンの遊園地や、旅先で出会った奇妙なオブジェたち。 彼のアートワークに通じる色彩やフォルムが、日常の風景の中に見出されていることがわかります。 デザインがスタジオの中で生まれるのではなく、こうした生活の延長線上にあることを教えてくれます。
もちろん、彼の手がけた家具やインスタレーションの記録も。 しかしそれらは「作品」として鎮座しているのではなく、 誰かの部屋やショールームの一部として、生々しく存在しています。 80年代という時代の空気が、そのまま真空パックされたような空間です。
巨大なパフェを前にした高揚感。 こうした何気ないスナップショットの数々が、 まるで友人のアルバムを覗いているような親密さを生んでいます。 デザイン史の資料でありながら、肩肘張らずに楽しめるロードムービーのような一冊。
そして、この本自体が美しいプロダクトでもあります。 アートディレクションは、メンフィスのクリストフ・ラドル。 強烈なボーダー柄は、無造作に置くだけでその場の空気を一変させる力強さを持っています。 過去の記録でありながら、今の暮らしに新鮮なインスピレーションを与えてくれる存在です。
420ページのボリュームは伊達じゃないです。