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無骨な空間に放り込む、シャネルという異物。

公開日:2026/02/13 更新日:2026/02/15
普段のウチのラインナップなら、シャネルのオートクチュールなんてまず並ばない。 けれど、この本が放つ圧倒的な「物質感」には、どうにも抗えなかった。 映画監督のソフィア・コッポラが、シャネルのアーカイブやアトリエの風景を独自の視点でまとめた一冊。 クラフト紙のような素っ気ないスリップケースから現れるのは、目が眩むほど分厚いゴールドの表紙。 ファッション誌というより、鈍く光る“塊”のような佇まいだ。
クラフト紙のような素っ気ないスリップケースから現れるのは、目が眩むような分厚いゴールドの表紙。 ファッション誌というより、もはや鈍く光る金属の塊のような佇まい。 このパッケージのギャップだけでも、ひとつのプロダクトとして惹きつけられる。
ページをめくって驚くのは、そのラフな構成。 ハイブランドの作品集といえば、隙のない完璧なスタジオ写真が並ぶのが定石だけれど、これは違う。 ポラロイド写真のコラージュ、走り書きのメモ、無造作なペイント。 誰かの私的なスクラップブックを覗き見しているような、生々しい熱がある。
オートクチュール(高級洋裁)という、狂気的なまでに手間をかける手仕事の世界。 ドレスの設計図とも言えるスケッチや、職人たちの指示書きがそのまま載っている。 そこにあるのは、きらびやかなファッションショーではなく、極限まで技術を突き詰めるプロたちの「現場」の記録。 ジャンルは違っても、完成品の裏側にある泥臭いプロセスに心が動く——その感覚は、たぶん多くの人にあると思う。
もちろん、アトリエでの息詰まるような作業の果てに完成した、美しいドレスの姿も収められている。 ただ、それらもソフィア・コッポラのフィルターを通すと、どこか映画のワンシーンのように切り取られていて、単なるファッションカタログの枠には収まらない。
きらびやかなショーの裏側。出番を待つモデルや、それを見守る関係者たちの、少し気の抜けたような、あるいは張り詰めたような空気感。 「完璧な世界」の裏側に潜む人間臭さが、ドキュメンタリーのような奥行きを作っている。
そして、この本をモノとして決定づけているのが、この小口(ページの断面)の処理。 なんと真っ黒に塗り潰されている。 表紙のゴールドと、断面の漆黒。甘さなど微塵もない、インダストリアルな要素すら感じるストイックな仕上がり。 無骨なヴィンテージ家具の上にポンと置く。その計算された「ハズし」のオブジェとして、これ以上の適役はいない。