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認知症の方との関わり方|「正しさ」より「安心」を大切にしたい理由

公開日:2026/08/14 更新日:2026/08/14
認知症の方に何度も同じことを聞かれ、 「さっきも答えたよ」 と言ってしまったことはありませんか。 毎日そばで支えているご家族だからこそ、疲れたり、戸惑ったり、つい強い口調になってしまうことがあります。 それは、決してご本人を大切に思っていないからではありません。 けれども、認知症の方との関わり方を考えるとき、正しいことを伝えるよりも、まず安心してもらうことが大切な場合があります。 今回は、認知症の症状だけを見るのではなく、その行動の背景にある気持ちに目を向けながら、ご家族が大切にしたい関わり方をご紹介します。

症状だけを見ていませんか?

認知症になると、物忘れや同じ質問、外へ出ようとする行動など、以前とは違う様子が見られることがあります。 周囲は、どうしてもその症状に目を奪われます。 しかし、その方は認知症になる前から、長い人生を歩んできた一人の人です。 好きだったこと、続けてきた習慣、大切にしている人、誇りに思っていることがあります。 認知症の症状を正しく理解するとともに、 「この方は、今どんな気持ちなのだろう」 「何に不安を感じているのだろう」 「何があれば安心できるのだろう」 と考えることも大切です。 認知症を見るのではなく、その人を見る。 そこから、安心につながる関わりが始まります。

「不確かなこと」が増えていく

私たちは普段、記憶をもとに周囲の状況を理解しています。 ここがどこなのか。 今日は何をする日なのか。 目の前にいる人は誰なのか。 先ほど何を話したのか。 こうしたことが分かるから、安心して過ごせます。 認知機能が低下すると、それまで当たり前に分かっていたことが、少しずつ不確かになる場合があります。 買い物へ出かけたものの、帰り道が分からなくなった。 予定を聞いたけれど、何をするのか思い出せない。 知らない場所にいるように感じて、家へ帰りたくなった。 本人にとっては、周囲が思う以上に不安で、心細い状況かもしれません。 そのときに見られる言葉や行動は、周囲を困らせるためではなく、不安や混乱を伝えるためのサインであることがあります。 行動だけを止めようとする前に、その奥にある気持ちを考えることが大切です。

何度も聞くのは不安だから?

認知症の方が、同じことを繰り返し尋ねることがあります。 「今日は何日?」 「次は何をするの?」 「娘はいつ来るの?」 一度答えても、その内容を覚えておくことが難しく、また分からない状態に戻ってしまうことがあります。 分からないから不安になる。 聞くと教えてもらえて安心する。 けれども、その答えを忘れてしまい、再び不安になる。 そのため、同じ質問を何度も繰り返すことがあります。 「さっきも言ったでしょう」と指摘されても、本人には聞いた記憶そのものがない場合があります。そこで強く否定されると、不安や混乱がさらに大きくなることもあります。 毎回穏やかに答えることが難しい日もあると思います。 そのようなときは、予定を書いた紙やカレンダーを見やすい場所に置いたり、言葉だけでなく写真や絵を使ったりする方法もあります。 質問をやめさせることよりも、どうすれば本人が安心できるかを考えてみましょう。

出来事を忘れても気持ちは残る

記憶には、さまざまな種類があります。 昨日の出来事や、先ほど聞いたことのような記憶は、早い段階から失われやすいことがあります。 一方で、長年続けてきた習慣や体で覚えた手順は、比較的保たれる場合があります。 また、何があったのかを詳しく思い出せなくても、 「うれしかった」 「怖かった」 「この人といると安心する」 という感情が残ることがあります。 どのような言葉をかけたかだけでなく、どのような表情や声で接したかも大切です。 話の内容を忘れてしまったとしても、 「私の話を聞いてくれた」 「この人は私を否定しない」 「この人と一緒なら大丈夫」 という安心感が、関係づくりの土台になっていきます。

正しい説明が安心とは限らない

認知症の方の認識が、実際の状況と異なることがあります。 たとえば、施設にいる方が「家に帰りたい」と話したとき、 「ここがあなたの家ですよ」 「もう自宅には戻れません」 と正しい事実を説明しても、安心につながらないことがあります。 そのような場合は、 「おうちが恋しいのですね」 「どんなおうちだったのですか?」 と、まず気持ちを受け止めてみます。 事実を訂正することよりも、「帰りたいほど心細い」「安心できる場所を探している」という気持ちに目を向けるためです。 本人の話にすべて合わせなければならない、ということではありません。 正しさを伝える前に、まず今の気持ちを受け止める。 それだけで緊張が和らぎ、次の話を聞いてもらいやすくなることがあります。

その行動には理由がある

認知症の方に見られる興奮、大声、介護への拒否、歩き回る行動などは、認知症だけが原因とは限りません。 その背景には、 ・知らない場所にいるようで怖い ・何をされるのか分からない ・痛みや便秘、喉の渇きがある ・疲れている、眠れていない ・以前の生活習慣と異なる ・自分の役割を失ったように感じる ・周囲の人との関係に不安がある といった要因が隠れていることがあります。 たとえば着替えを嫌がる場合も、単に「着替えたくない」のではないかもしれません。 寒い、体が痛い、服を脱ぐ理由が分からない、知らない人に体を触られるのが怖いなど、本人なりの理由が考えられます。 目に見える行動だけを問題として捉えるのではなく、 「怖いのかな」 「痛いところがあるのかな」 「どうすれば安心してもらえるかな」 と、その前にある気持ちや体調を考えてみることが大切です。

できることに目を向ける

認知症になると、周囲は事故や失敗を心配して、つい何でも代わりに行いたくなります。 しかし、ご本人にはまだできることが残っています。 長年続けてきた家事、着替えや歯磨きの手順、花への水やり、洗濯物をたたむことなど、体が覚えていることもあります。 すべてを任せるのではなく、 最初だけ一緒に行う 一度にたくさん説明せず、一つずつ伝える 必要なものを使う順番に並べる できる部分は急かさずに待つ 少し難しいところだけ手伝う といった工夫によって、続けられる場合があります。 「できなかったこと」ばかりを指摘されると、本人の中にも失敗したときのつらい感情が積み重なっていきます。 反対に、「自分にもできた」「誰かの役に立てた」という経験は、安心や自信につながります。 できることを増やすことだけが目的ではありません。 音楽を聴く、散歩をする、好きな話をする、誰かと一緒に笑う。 その人が楽しいと感じられる時間を増やすことも、大切な認知症ケアです。

ご家族も無理をしないで

認知症の方との関わり方を知ると、 「今まで間違った接し方をしていた」 「もっと優しくしなければ」 と、ご自分を責めてしまう方もいらっしゃいます。 けれども、毎日同じ質問に答え、生活を支え続けることは簡単ではありません。 いつも笑顔で、何度でも穏やかに応じなければならないわけではありません。 疲れているときは、ほかの家族や介護サービスに頼ることも必要です。 大切なのは、完璧な対応を続けることではなく、対応に迷うような行動があったときに、 「認知症だから仕方ない」 「どうしてこんなことをするの」 だけで終わらせず、 「本人は今、どのように感じているのだろう」 と、少し立ち止まって考えてみることです。

「いい人だ」という感情が残る関わりを

認知症ケアは、症状への対処方法だけで成り立つものではありません。 まず、その人の気持ちを受け止める。 安心できる関係をつくる。 そのうえで、必要な支援を考える。 こうした関係性が土台にあってこそ、声かけや生活上の工夫も届きやすくなります。 話した内容は忘れてしまっても、 「この人は私の話を聞いてくれる」 「この人といると安心する」 という感情が残ることがあります。 認知症だけを見るのではなく、その人を見る。 正しさを伝えることよりも、その人がどう感じているかを大切にする。 目の前の行動を変えようとする前に、不安を安心へ変えていく。 それが、認知症の方との関わり方を考えるうえで、大切な出発点なのだと思います。 この記事は、福祉・介護・健康フェアで行われた、福岡県認知症介護指導者・上村尚之氏によるセミナー「症状の正しい理解と気持ちの理解から始まる認知症ケア ~“症状対応”から“安心づくり”へ~」の受講内容をもとに、せたがや介護がご家族向けに再構成したものです。 認知症の症状や現れ方には個人差があります。急な言動の変化、体調不良、生活上の強い支障などが見られる場合は、かかりつけ医や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへご相談ください。

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更新日09/12(09/05〜09/11集計)