産後の骨盤ベルトは、いつから使えますか?
産後の骨盤ベルトの装着開始時期について質問を受けましたので、質問への回答とともに、改めて「骨盤と骨盤の役割について」「骨盤帯について」「妊娠や出産による骨盤帯痛を起こす疾患」「骨盤ベルトについて」解説し、「産後の骨盤帯痛の事例」を紹介させていただきます。
Q:産後の骨盤ベルトは、いつから使えますか?
A:骨盤ベルトは、産後すぐから使うことができます。骨盤に痛みや不安定さを感じている人は、骨盤ベルトを装着することで、痛みが和らいだり、動きやすくなったりするなどの効果が見られます。しかし骨盤ベルトの装着の位置や方法が不適切だと、効果を得られないだけでなく、症状が悪化することもあるので注意しましょう。
【骨盤とその役割について】
骨盤:下記の図のように、骨盤は、上半身と下半身をつなぐ体の土台です。腸骨・仙骨・恥骨・坐骨から構成され、全体を骨盤帯と言います。骨盤には、歩行や運動をする際に受ける衝撃を吸収し、骨盤内の臓器(膀胱・腸・子宮・卵巣など)を保護する役割があります。
【骨盤帯痛について】
産後女性の3~4割が骨盤帯痛を経験することが報告されています。多くは、産後3カ月から6カ月に解消しますが、2割程度の人が2年以上持続しているとの報告があります。次回の妊娠・出産時に悪化する可能性もあり、注意が必要です。
【妊娠や出産による骨盤帯痛を起こす疾患】
骨盤輪不安定症と恥骨結合離開について説明します。何れも妊娠中から分泌されるリラキシンというホルモンの影響を受けます。リラキシンは、骨盤の関節や靭帯を緩ませ、骨盤を少し広げることで、胎児が産道をスムーズに通過しやすくします。しかし骨盤の関節や靭帯が緩むと骨盤が不安定になり、痛みを生じます。リラキシンは産後に速やかに減少しますが、骨盤が妊娠前に戻るのには少し時間がかかります。骨盤帯痛が続くと、日常生活や育児に支障をきたすだけでなく、持続すれば精神面にも影響を与えます。早期に対処することが必要です。
1. 骨盤輪不安定症
骨盤不安定症は、仙腸関節や恥骨結合に異常なずれが生じ、骨盤が不安定になった状態をいいます。症状としては、腰・仙骨部や恥骨部痛の訴え、歩行時や運動時の悪化が見られます。治療は、安静、痛み止めなどの薬物療法、骨盤ベルトなどによる固定、理学療法です。重症の場合には手術療法が行われます。
2.恥骨結合離開
恥骨結合は、妊娠中のリラキシンホルモンの影響で1cm程度緩みます。1cm程度の緩みであれば、産後の安静により自然に回復し、心配はありません。しかし1cm以上開き、恥骨や股関節の強い痛み、歩行困難(特徴的な歩き方)がみられる場合は治療が必要です。治療は、安静、薬物療法、骨盤ベルトなどによる固定、理学療法です。重症の場合には手術療法が行われます。
【骨盤ベルトについて】
産後の骨盤帯痛に対しては、一般的に骨盤ベルトなどの固定帯を使ったケアが行われます。骨盤ベルトの効用は、骨盤が安定し、腰にかかる負担が少なくなることです。具体的には「腰痛の軽減」「骨盤周囲の不快感の減少」「日常生活動作の改善」「疲労や自覚症状の改善」などが見られます。一方で症状が改善しないという報告もあります。この場合、考えられることの一つに骨盤ベルトの種類や装着の仕方が適切ではないことがあります。その場合は、まず助産師や理学療法士に相談することをお勧めします。また、日常生活や育児に支障を感じたり、症状が重くなったりする場合には、迷わず整形外科を受診しましょう。
【産後の骨盤帯痛の事例】
産後に、骨盤帯痛を発症し、骨盤ベルトなどでの固定が必要になった3事例を紹介します。
事例①
Aさんは、自然分娩でお産の経過に異常はありませんでした。しかし産後1日目に動きにくさを訴え、横を向いたり、起き上がるのもやっとでした。トイレには自分でなんとか移動できますが、その姿はカニ歩きのようです。歩くと骨がギシギシと音を立てると言います。そこで、恥骨結合部分にそっと触れてみると指1本分位開いており、少し圧迫すると痛みを訴えます。恥骨結合離開の典型的な症状です。
恥骨結合部分を左右から寄せるように腹帯で固定することで、症状も軽くなりスムーズに動くことができました。医師の診察も受け、恥骨結合離開の診断がつきました。これで問題は解決したように見えましたが、翌日再び痛みが強くなっていました。原因は、骨盤ベルトの装着位置が高すぎたことでした。恥骨周辺ではなく、腸骨部分にかかるように巻かれ、恥骨に負担がかかっていました。その後、改めて骨盤ベルトの装着方法と注意事項の説明を受け、自分で適切に装着できるようになり、問題なく母子共に退院できました。
事例②
産後2か月の3人目で、抱っこの相談に来られ方です。赤ちゃんを抱っこして移動しているときに、少し足を引きづっていました。気になって話を聞くと、産後から恥骨と腰・仙骨部に痛みが続き、歩きにくさを感じていたそうです。しかし異常だとは思っておらず、赤ちゃんや上の子の世話で忙しく、受診もできていませんでした。この方は、骨盤輪不安定症が疑われました。
骨盤ベルトが無かったので、とりあえず腹帯で固定しました。痛みと歩行時の違和感を軽減することができました。腹帯は、ズレやすく自分でまき直すことが大変なので、数日後に骨盤ベルト(一般用)購入されました。受診を勧めていましたが、やはり忙しくタイミングを逃していました。幸いなことに症状は軽快しました。
事例③
産後4カ月の女性で、骨盤ベルトを使っているけれど効果が見られないし、使い方がわからないので見てほしいとの相談でした。そこで、どのように装着しているのかを見せてもらうと、骨盤の上の方、腸骨・腹部周辺を固定していました。
装着方法を一緒に確認し、恥骨周囲で固定すると骨盤の安定感が得られ、痛みが軽減しました。一日複数回巻きなおすため、自分で適切に固定できるようになるまで何度も練習されました。
これらの3事例では、骨盤ベルトを適切な位置で固定することの大切さを示しています。
まとめ
骨盤ベルトは、産後の骨盤帯痛を軽減するための手軽なツールです。一方で装着方法が不適切だと効果を得ることができません。はじめて骨盤ベルトを装着するときや、骨盤ベルトの効果が見られない場合には、助産師や理学療法士に指導してもらうことをお勧めします。